FAQ

「プーリング」とは?

1. プーリングとは

プーリングとは、予め定めたルールに基づき複数の口座間で自動的に資金移動を行ったり(アクチュアル・プーリング)、複数の口座の合計残高に対して利息の計算を行って付利を行ったり(ノーショナル・プーリング)するソリューションです。通常は同一企業の口座間、または同一の企業グループに属する複数の企業の口座間でプーリングを行います。

① アクチュアル・プーリング

複数の口座間で自動的に資金の移動を行うもので、キャッシュ・コンセントレーションやフィジカル・プーリング、資金集中配分と呼ばれることもあります。一般的には一つのマスター・アカウントと一つ以上の参加者口座で構成します。

アクチュアル・プーリングの代表的なものとして、ゼロ・バランスとターゲット・バランスがあります。ゼロ・バランスでは参加者口座のプラスの残高を全てマスター・アカウントに移動してゼロにします。また、マイナスの残高の口座にはマスター・アカウントから資金移動を行って残高をゼロにします。ターゲット・バランスでは、各口座毎にターゲット残高を予め設定し、実際の残高がターゲット残高となるようにマスター・アカウントとの間で自動的に資金移動を行います。

複数の企業間でアクチュアル・プーリングを行う場合、プーリングによる資金移動はインターカンパニーローンと見做されます。日本では親会社が子会社の議決権の過半数を保有している場合や、子会社の議決権の40%以上50%以下を保有し、かつ、 財務及び事業の方針の決定を支配している場合には、アクチュアル・プーリングは貸金業規制の適用から除外されますが、この基準に該当しない会社をプーリング・ストラクチャーに入れる場合には貸金業の登録が必要になります。(「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」の具体的な要件は、貸金業法貸金業法施行規則第1条第3項で定められています)

• アクチュアル・プーリングの目的

i. 金融収支の改善

預金残高は日々変動するものであり、予定していない出費が発生したり、予定していた入金がないことも起こり得ます。このため、資金ショートを起こさないために預金口座に多めの資金を置いておく必要があります。

複数のグループ会社間でアクチュアル・プーリングを導入すれば、各参加者の口座残高は最低限に抑え、不測の事態が発生した場合には自動的にマスター・アカウントから資金を補充して残高不足になることを防止することができます。結果として、外部調達の削減や効率的な資金運用の実現により金融収支(受取利息—支払利息)を改善することができます。

下表の例では親会社、子会社A、Bのネット資金量(=預金残高)はそれぞれ50億円、30億円、20億円のプラスですが、子会社Cは60億円の借入状態です。預金金利が0.01%、借入金利が1.25%であった場合、年間の金融収支は-7400万円となります。

プーリング導入前

親会社 子会社A 子会社B 子会社C 合計
預金残高 50億円 30億円 20億円 -60億円 40億円
金利 0.01% 0.01% 0.01% 1.25%
利息額 50万円 30万円 20万円 -7500万円 -7400万円

この企業グループに親会社の口座をマスター・アカウントとするアクチュアル・プーリングを導入し、子会社のプラスの残高は自動的にマスター・アカウントに移動し、マイナイスの残高はマスター・アカウントからの資金移動により自動的に補充する仕組みを導入すると、親会社の残高は40億円、子会社A、B、Cの残高は0となり、年間の金融収支は+40万円となります。つまり、アクチュアル・プーリング導入により年間の金融収支が7,440万円改善したことになります。

プーリング導入後

親会社 子会社A 子会社B 子会社C 合計
預金残高 40億円 0億円 0億円 0億円 40億円
金利 0.01%
利息額 40万円 0万円 0万円 0万円 40万円

ii. 「使える資金」の最大化

海外子会社を持つ大企業の中で、連結決算書上の現預金勘定の大半を親会社がすぐに自由に使えるところは殆どありません。連結決算書上の現預金の内親会社の手元にある資金は1割程度であるといった企業も珍しくありません。多くの企業では多額の現預金が海外子会社が保有する海外の預金口座にあり、配当金やインターカンパニーローンで親会社に資金を持ってくるのは思った以上に時間と労力がかかるものです。

アクチュアル・プーリングによる資金移動に関する税務、法務、各国の規制等の課題を予めクリアしてプーリング・ストラクチャーを構築し、グループ会社が保有する余剰資金を親会社に集中することにより、親会社が自由に使える手元資金を増やしておくことも、アクチュアル・プーリングの導入目的の一つです。グローバルベースで余剰資金を親会社に集中しておくことによって、設備投資やM&A等重要な企業戦略に対して財務面で機動的にサポートすることが可能となります。

iii. リスク管理

アクチュアル・プーリングはリスク削減策としても有効です。ゼロ・バランスを導入してカントリー・リスクが高い国、信用リスクの高い銀行にはなるべく資金を置かないようにして、地政学的リスク、カンターパーティー・リスクの削減を図る、また、海外子会社にはなるべく預金残高を置かないようにして社内の不正リスク削減策とする等、リスクのあるところにはなるべく資金を置かないようにすることも、アクチュアル・プーリングの導入によって可能となります。

このように、アクチュアル・プーリングはリスク削減策としても有効な手段となります。

② ノーショナル・プーリング

ノーショナル・プーリングは、複数の口座間で資金移動を行わずに、アクチュアル・プーリングで得られる金融収支の改善効果と同様の経済効果を得ようとするものです。

下記の例では、同一の銀行に親会社、子会社A、B、Cの口座を開設し、当該銀行はそれぞれの口座残高に基づいて利息計算を行うのではなく、合計残高の40億円に基づいて金利計算を行い、その果実を利息または手数料としてヘッダーアカウントに対して支払います。

親会社 子会社A 子会社B 子会社C 合計
預金残高 50億円 30億円 20億円 -60億円 40億円

ノーショナル・プーリングでは、参加グループ会社間でインターカンパニーローンが発生しないため、インターカンパニーローンの利息に関する源泉税やローン・アグリーメント締結等の面倒な手続きから解放されます。

一方で、アクチュアル・プーリングの場合には子会社Cは親会社からの借入によって銀行借入を60億円返済することができますが、ノーショナル・プーリングでは銀行借入は残ったままです。

連結決算書上の借入金の残高をネット後の40億円で計上できるかに関しては確立した見解がなく、慎重な対応が必要です。また、ノーショナル・プーリングは一般的には同一銀行の同一国内の支店内にある口座間で行うものであり、実施に先立って海外の参加会社はサービスを提供する銀行の所在国に非居住者口座を開設し資金移動を行っておくことが必要です。

2. プーリング導入時の留意点

① 参加会社所在国の規制

プーリングに関しては国によって様々な規制があります。規制の対象となり得る主な行為は以下の通りですが、行為自体が禁止されていたり、当局への許可申請や事前届出、報告等が必要となる場合もあります。当局への許可申請、届出、報告等の手続きも数ヶ月間かかる場合もありますので、注意が必要です。

規制の対象となり得る行為

  • インターカンパニーローン
  • アクチュアル・プーリング
  • ノーショナル・プーリング
  • 非居住者預金の開設や非居住者預金を使った決済
  • 海外預金の開設や海外預金を使った決済
  • 外貨預金の開設や外貨預金を使った決済
  • 非居住者との間の外国為替取引

② 税務上の問題

i. インターカンパニーローンの留意点

複数の企業間でアクチュアル・プーリングを行う場合、会社間の資金移動はインターカンパニーローンと見做されますので、インターカンパニーローンの留意点をクリアする必要があります。

ii. プーリング・ベネフィットの配分

プーリング導入によって企業グループ全体として経済的効果(プーリング・ベネフィット)を生みますが、このベネフィットの参加者への配分ルールを定めておく必要があります。

iii. 費用負担

税務上の観点からも、以下の費用については参加者間で負担ルールを定めておく必要があります。

管理費用:
例えばアクチュアル・プーリングの場合、プーリング実施前は子会社はそれぞれ金融機関との間で借入条件や資金運用について交渉し、自ら資金の運用調達を行う必要がありますが、プーリング実施後はマスター・アカウントを保有する親会社が金融機関との交渉や管理業務を一括して行い、親会社で管理費用が発生することになります。このように、プーリング実施により参加者の事務負担は削減されますが、プーリング・ストラクチャーの管理者としてマスター・アカウントを保有する親会社の事務負担が増加します。こうした管理費用の負担についても参加者間でルール作りが必要です。
銀行関連費用:
マスター・アカウントを保有する親会社がプーリング・ストラクチャーの構築に要する銀行手数料や契約関連費用、プーリング・ストラクチャーの利用料を支払うことになります。管理費用と同様に参加者間で負担ルールを定めることが必要です。
保証料:
プーリングを利用する際、サービスを提供する銀行からプーリング参加企業間のクロス・ギャランティーを求められるのが一般的です。信用力の高い参加者が他の参加者の信用力を補完するための保証であり、参加者間で保証料の受払いについてもルール作りをしておく必要があります。

このコンテンツは、トレジャリー・マネジメント・ハンドブックに収録されています。