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経理と財務、似て非なるもの

By Toshiya Yakata
Principal Consultant, Kyriba Japan

経理と財務の違いについて、これまでも多くの方がネット上などでコメントされていますが、キリバ・ジャパンに新たに入社した営業向けのワークショップのアジェンダのひとつとしても本テーマがあり、そのコンテンツの作成を依頼されて自分なりに考えてみましたので、ここでご紹介したいと思います。

■扱っているものが違います

どちらもおカネに関する業務のように思われていますが、誤解を恐れずに言うなら

  • 経理は事業活動(モノやサービスや人の流れ、活動)をおカネ(貨幣価値)に換算した数字(帳簿)を扱う仕事
  • 財務は事業活動に伴って必要になったり不足したりするおカネ(キャッシュ)を扱う仕事

そう、経理は実はおカネ(キャッシュ)を扱っていません。

実際には出納業務で現預金を扱う経理部門の方もいらっしゃいますが、これは経理と財務の業務の違いというより、組織上の役割分担の話(財務と経理が組織として分かれていなかったり、財務部門は本社のみで地方拠点の出納業務は現地の総務や経理の名称を持った部署が行っていたり等)なので、以降では経理業務=財務会計、管理会計という前提で「数字を扱う」という表現が意図することや、その他の具体的な違いについてコメントします。

■仕事の内容の違い

経理と財務の仕事の内容をおさらいしてみます。

<経理の仕事>

  • 財務会計(単体決算、債権債務管理、その他補助簿管理、連結決算)
  • 管理会計(予算策定、業績分析、戦略策定支援)
  • 制度設計(社内の会計ルール、業績評価プロセス、内部統制)
  • 税務対応(税務申告、税務調査対応、社内教育)

<財務の仕事>

  • 資金管理(収支計画、資金調達/運用、資金予測)
  • 財務リスク管理(流動性、為替、金利、カウンターパーティ、ソブリン、等)

業務メニューで言うとざっくりこんな感じだと思います。もう少し具体的に言うと、例えば、個人で輸入ビジネスをしているようなケースにおいて、

  • 今月、どんな品をどれくらい輸入して、それぞれに利益を上乗せして、大体これくらい儲けようという計画を立て(予算策定
  • いざ実行してみたら、輸入した品も数量も価格も大体予定通りだったのに、手元に残ったおカネが予想よりも少なかった、というときに
  • 仕入れの実績(数量、価格)と販売の実績(数量、価格)、輸入や顧客への配送、諸々の手続きにかかった費用を計算し、いくら儲かったのかを正確に計算し(決算:PL作成
  • 計画よりも儲けが少なくなった原因がどこにあったのか調べる(業績分析

以上が経理の仕事の具体的例です。後にひかえる確定申告(税務申告)もそうですね。

そして、ビジネスを始めるにあたり、

  • 今月の仕入れでいつ、いくらのおカネが必要で、販売での入金がいつ、いくらあるのかについて見込みを作成し(資金計画)、
  • おカネが不足することがないように、その動きや残高を日々ウォッチし(資金繰り管理
  • 輸入代金の支払い用の外貨をなるべく条件のよいレートで準備する(資金調達為替管理

これが財務の仕事の具体例になります。

■ 数字の捉え方の違い

例えば、欧米や中国に子会社を持つ日本企業で連結財務諸表上の現預金残高が150億円というとき、経理の視点では連結決算の結果、算出された150億円という数字の正確性や妥当性(前年同期の残高や予算、見込みとの比較や著しい差があった場合の要因分析など)を調査、確認することが重要になります。

しかし、財務の視点では、財務諸表上は150億円という1つの数字ですが、円の他にもドルやユーロや元などの複数の通貨で、複数の口座(国、地域)に分散されて存在し、それぞれに為替リスクやローカルルール(当局の規制や銀行のルール)が存在するので、通貨別、場所別(国、地域、銀行、口座)の残高の情報が必須で、それが財務諸表というすでに過去のものとなった情報ではなく、今いくらあるのか、今後いくら出入りがありそうなのか、そして出入りがある時点(=将来)での為替レートをいくらと想定するか、などが重要になります。

■ なので、経理は過去、財務は将来と言われます

繰り返しになりますが、経理は事業活動(モノやサービスや人の流れ、活動)を数値化し、会計基準や会社法などのルールに則って財務諸表などの成績表としてまとめ、社内外のステークホルダーに開示・報告し、説明することが最も重要な業務であり、したがって、経理が見ている数字は過去(最速でも今この瞬間まで)の事業活動の結果情報*と言えます。

一方、財務は事業活動に伴って発生したおカネをどう効率的に管理、運用するか、おカネそのものが持つ様々なリスクをどう最適化するか等の、今この瞬間のリアルな情報とこれから先の予測情報が重要視されます。

*経理のアウトプットにも業績予測やIFRSの包括利益など将来の事業活動を見るような部分もありますが、それは今期の事業活動の結果であるBSやPLをもとに将来情報を加味して作った数値であり、これまでの事業活動の結果数値(決算数値)の正確性と妥当性を追求し、社内外のステークホルダーに説明することがメインテーマであることに変わりはありません。

■ まとめ -3つの違い-

①扱うものが違います

経理は数字(帳簿)を扱い、企業内の情報が中心。
財務はリアルなおカネ(キャッシュ)を扱い、社内だけでなく社外の情報も幅広く扱い、かつ重要視される。

②見ているものが違います

経理は数字を通して事業の遂行状況と事業運営に関わるリスクを見ている。
財務はリアルなおカネとおカネに関わるリスクを見ている。

③見ている時間が違います

経理は過去と今の数字を年度、半期、四半期、月のサイクル*で見ている。
財務はリアルなおカネの今とこれからを見て日次やリアルタイム**に見ている。

*これは主に財務会計の話で管理会計においては事業内容や指標に応じて日次や週次といった様々なサイクルがあります
**望ましいサイクルはこちらですが、グループ全体の状況の把握は月次にならざるを得ない企業も現実には少なくありません

■ 最後に - 経理に有効な ERP、財務に適した TMS -

このように経理と財務の違い(特徴)を整理するとERP会計の3つの特長がいかに経理に有効かが再認識されます。

● ERP会計の3つの特長

①源流の業務プロセスとリアルタイムに統合した正しい会計情報
②恣意性のない生データに基づく事業実態の可視化
③内部統制が組み込まれた業務プロセス

ERP会計が多くの企業に導入されているのもうなずけます。

そしてキリバTMSの特長が財務にいかに適しているかも、その意を強くします

● キリバTMSの特長

 ①銀行やERP会計など周辺システムとの効果的な連携を実現するコネクティビティ
  →社内外のキャッシュや財務リスクに関する情報の一元管理と業務プロセスへの活用

 ②ERPコアの周辺で互いに連携し合う柔軟な運用形態
  →重要視されるデータの違いやデータの管理サイクルおよび粒度の違いを吸収

 ③内部統制が組み込まれた業務プロセス(特に支払い関連)

本記事は筆者のこれまでの事業会社の経理部門での経験やERPベンダーでの多くの企業(主に製造業)への提案活動をベースとした見解です。「ここは違うと思う」とか「こんな見方ある」といった意見もあろうかと思いますので、そういった様々な視点やご意見をお持ちでキリバに関心をお持ちの方、ぜひ弊社へのコンタクトをお待ちしております。

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