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財務変革プロジェクトの ROI を見極める

By Lisa Husken - Translated by Satoshi Takeuchi
Kyriba Value Engineering

はじめに – 訳者から

財務変革プロジェクトの投資対効果 (ROI) を特定するにあたり、トレジャリー・マネジメント・システム (TMS) を導入した多くの企業に共通する効果として、以下のようなものがあります。

  • オペレーションの自動化や標準化による「業務効率化・生産性向上」
  • グループ全体での:
    • 資金・流動性の可視化や資金集約・分配体制の確立による「資金の最適活用」
    • 外国為替や金利のエクスポージャーの把握と迅速なヘッジ運用
    • 決済の効率化

これらはそれぞれ、人的コストや外部管理コスト、財務コスト(資金調達コストやヘッジコストなど)、銀行手数料、送金費用などの削減につながり、収益性の改善に繋がります。そのため、ROI 算出の際に漏れることはあまりないでしょう。

一方で、財務変革プロジェクト全体の価値を評価する上で重要な要素でありながら定量化が難しく、ROI の算出に取り込みにくい定性的な効果もあります。当記事では、そのうち特に重要な 4 点について説明しています。

  • 戦略的パートナーとしての財務部門の確立
  • 業務継続リスクの低減
  • 人的資本の最適化
  • 統制の強化

定量的な効果と、定性的な効果。その両面から価値を捉えることで、財務変革の取り組みが確かな形で定着化し、永続性をもって企業の成長戦略に繋げることができるのではないでしょうか。

Value Engineer 武内 聡


トレジャリー・マネジメント・システム (TMS) 導入のトータルの価値を正しく見極めるにはどうすればよいのでしょうか。財務変革プロジェクトの或る側面は明白に測定されうる一方で、その他の価値構成要素は定量化が難しく、見落とされることがよくあります。財務の取り組みの ROI を評価する際には、価値提案のすべての構成要素が説明されていることを確認することが重要です。

戦略的パートナーとしての財務部門の確立

財務部門はもともと、財務オペレーションの確実な遂行や資金効率化向上を模索しつつ、問題があった際の火消しのような役割を果たしてきました。しかし今では、内部統制や資金リスクの管理といった守りの側面や、資金予測や流動性リスクの分析といった重要な情報の提供など、求められる役割は広く・深くなってきています。そして今後は、財務戦略への提言やその実行をサポートするビジネスパートナーとしての役割がますます求められるようになると考えられます。包括的な財務データと分析ツールにアクセスし、グローバルな流動性の現状・傾向分析を網羅的かつ迅速に提供することで CFO の意思決定をサポートしたり、あるいは資金配分、投資機会、資金調達戦略等に関する価値ある洞察や提案を行えるようになれば、信頼できるビジネスパートナーとしての地位を確立することができます。あなたのチームは、社内の関係者にどのような分析やサポートを提供できるようになるのでしょうか。そしてそれはどのようなビジネス上のアドバンテージを見込めるでしょうか。このような価値を明確にすることが、正確で包括的な投資評価を行う上で重要です。

業務継続リスクの低減

多くの組織では、業務プロセスを確立させて文書化していますが、これはある程度の統制とガイダンスを提供しますが、必ずしもプロセスの全体像を捉えているとは限らず、最新の変更がなかなか反映されなかったり、その例外事項をすべて網羅することができなかったりします。TMS によってプロセスを標準化し繰り返される作業を管理することで、各々の専門知識への依存を排除し、業務の継続性を確保することができます。また、システマチックなプロセスの実施により、現在のプロセスを評価する時間が増え、ベストプラクティスを確立する機会を得ることができます。

現在のチームの構成と、各メンバーの職務範囲について考えてみてください。もし、主要な従業員が退職した場合、業務を円滑に継続できるのか。残ったメンバーで仕事を吸収し、再分配することができるのか、それとも習得に時間がかかるのか。同じ業務品質を途切れることなく提供し続けられる能力は、現状を改善する能力と同じように、投資効果を計算する上で欠かせない要素なのです。

人的資本の最適化

財務部門は、優秀で経験の長い人材で構成されることが珍しくありません。そのような人材がデータの収集や統合といった手作業に時間を費やすことが多いとどうなるでしょうか。
組織の最大の資産である人材を適切に活用できないことは、組織の成長の機会を逃すだけでなく、従業員の士気を低下させ、離職率を高める可能性もあります。

財務プロジェクトの ROI には、オペレーション活動に費やされていた時間を再利用し、より付加価値の高い戦略的な取り組みに活用することで人的資本を最適化する、ということの価値を含める必要があります。チームメンバーがどのように時間を有効に使うことができるか、また、新たな戦略的な取り組みが組織にどのような影響を与えるかについて考えてみましょう。例えば、為替変動の影響を軽減するための為替リスク管理プログラムを評価、作成、実施するために、専門家と協働する時間を確保することができるようになりま
す。また、運転資本管理を最適化するために、ダイナミックディスカウントやサプライチェーンファイナンスの構想を開始する機会もあるかもしれません。財務変革プロジェクトが可能にするすべての潜在的なプロジェクトを評価し、ROI 計算の一部として含める必要があります。

統制の強化

軽視されがちな最後の価値要素は、統制強化・管理の一元化です。2022 年に KPMG が 642 以上の組織を対象に行った調査では、調査対象の 83% が過去 12 カ月間に少なくとも 1 回のサイバー攻撃を経験したと回答しています。さらに、回答者の 71% が何らかの内部または外部からの不正行為を経験したと回答し、55% が規制当局の罰金やコンプライアンス違反による損失を被ったと回答しています。不正な支払いは、収益に影響を与えるだけでなく、組織の評判を落とすリスクもあります。TMS のプラットフォームを活用することで、グローバルに統制と報告を標準化し、監査可能な内部ポリシーの実施を保証し、不正行為の成功の機会を最小限に抑えることができるようになります。また、財務統制の集中化は、情報の透明性とアクセスの向上や、規制要件への準拠にも貢献します。

財務ソリューションがない場合、組織や資産、評判を不正からどのくらい効果的に守ることができるでしょうか。本来のビジネスと関係のないところから来る売上の減少、顧客の喪失、訴訟の可能性、将来のビジネスの損失など、そのリスクを軽減する価値は、投資効果の計算において不可欠な要素です。

このように、財務変革プロジェクトの投資対効果を評価することは、生産性の向上とソリューションのコストとを単純比較するよりも複雑な作業です。意思決定プロセスにおいては、プロジェクトの潜在的な価値要素や組織全体への影響をすべて考慮する必要があります。このような複雑な価値要素は見落とされがちであるため、多くの財務部門は、包括的な評価を確実にするために、プロジェクトの潜在的な ROI を計算する際に外部のサポートを活用しています。

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