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加速するグローバル化と金融テクノロジーのトレンド

By Kaz Goto
Senior Product Marketing Manager

企業と銀行をつなぐテクノロジー 第 1 章 〜 この章では、世界的な金融テクノロジーのトレンドを探り、グローバル化が金融サービスと取引にどのような影響を与えているかを分析します。

はじめに

本稿では、「企業と銀行をつなぐテクノロジー」をテーマに、企業・銀行間の接続がどのように行われ、利用企業にとってどのようなベネフィットがあるのか、また、何が課題になり得るのかについてを、「日本としてどうなのか」の視点を軸に展開します。また、できるだけ分かりやすく、すぐに読み切れるものとしたいと思います。

この領域は、トレジャリー (資金財務) の分野では一般的に「銀行接続」「バンク・コネクティビティ (Bank Connectivity)」といった言葉で表現されることが多く、企業での財務の観点では、銀行残高や入出金明細の照会、資金移動・送金といった日常業務と深く結びついています。ある意味「空気や水のような存在」— そこに当たり前のものとして存在するものかもしれません。

企業ユーザーが銀行の情報にアクセスする方法には、ウェブブラウザからアクセスする銀行のインターネット・バンキングのポータルサイト、銀行サービスへのアクセスに特化した 端末型のソフトウェア (VALUX 端末等 – 2 章で言及しています)、そして、接続のための仕組みが組み込まれた業務アプリケーション (CMS = キャッシュ・マネジメント・システムTMS = トレジャリー・マネジメント・システム、あるいは ERP もこれに含まれます) といったものがあります。日常業務で利用するのはいずれかひとつというわけではなく、業務領域や取引先の銀行によって異なることも多いでしょう。

当ブログでは、手段に拘らず包括的にこの領域を扱いつつ、特に企業ユーザーの視点で日々の業務を捉える上で、今後変わり得る可能性を想像し、何かしらの気づきやインスピレーションとなること、また、その先に企業がその目的 (パーパス) を実現するために「お金」を扱う上での創意工夫に繋がることとなればと願っています。構成は、以下 5 つの章で展開しています。

  1. 加速するグローバル化と金融テクノロジーのトレンド
  2. 日本の金融テクノロジー : 全銀システムと ANSER を中心に
  3. 国際標準としての Swift と Host-to-Host 接続
  4. デジタル化時代の金融セキュリティ
  5. 将来の展望 : 金融テクノロジーの未来と革新

まず全体感を捉えた上で、日本市場の技術インフラの状況、国際標準やグローバルの状況の現状を整理し、その先にある社会命題としてのセキュリティ、さらに発展的にこれからの未来に何が実現され得るのかについてを掘り下げています。

グローバル化 – 技術と経済、そしてユーザー中心主義

90年代以降、経済のグローバル化は常に情報技術の発展とともにありました。特に 90 年代においては、Windows に代表されるパーソナル・コンピューティングと、「グローバルで標準的な OS」といったグローバルで同じ作法で働けるというテクノロジー上の価値観が、企業が経済活動としてできることの幅を広げてきたと言っても過言ではないでしょう。パーソナル・コンピューティングの世界でも、1995 年に Windows 95 が発売され、90年代後半から2000年代にかけては、インターネットの急速な広がりを支える形で、データをやり取りするための専用線の敷設・通信技術の発展を遂げてきました。同時に、企業や、企業にサービスを提供する企業は (テクノロジー領域であるかに関わらず) インターネットやその周辺技術をサービスに活用していきます。

インターネットの技術に触れたことのある方であれば、「HTTP (ハイパーテキスト転送プロトコル)」「FTP (ファイル転送プロトコル)」 といった言葉を聞いたことがあるかもしれません。これらは「プロトコル」は、コンピュータ同士が言わば意思疎通するためのルール・決まりごとです。あるいは、「HTML (ハイパーテキスト・マークアップ言語)」「XML (エクステンシブ・マークアップ言語)」といった言葉もご存知でしょうか。これらは、やはりコンピュータ同士が情報を解釈する際に用いられる「言語」です。

パーソナル・コンピューティングでも使われてきたこのプロトコル、言語は、インターネットという世界を成り立たせるという世界的な取り組み (結果的なものではありますが) において、世界中で記述され、コンピュータ同士のコミュニケーションを加速してきました。そう、テクノロジーの世界においてやり取りされる言葉は共通のものとなり、コンピュータは標準語を話すようになったのです。

企業と銀行の間も同じです。それぞれに「いる」コンピュータは、それぞれに対話することができ、お互いに決めたやり方で、情報のやり取りをしています。口座残高、入出金明細を照会する、送金をする、そういった業務を行う際には、同じようにやり取りをしています。

では、企業の視点からして、日本国内の銀行と、海外の銀行とでは、そのやり取りの仕方は同じなのでしょうか? その回答は、「同じかもしれないし、違うかもしれない。」 — 「なんだ無責任な回答だな!」と思われたかもしれませんが、現在、企業と銀行をつなぐテクノロジーは、一枚岩ではありません。グローバルに展開する銀行においては、「同じようにできる」こともあるかもしれません。しかし、現在市場で選択できる手段はいくつかあります。また、前述のプロトコルと言語のように、技術の組み合わせによる多様性もあります。

ユーザー企業の視点では、数ある選択肢から自社の目的 (パーパス) に沿った、あるいは事業展開を進める上で合理的なものを選択していくことが重要です。テクノロジーはあくまで手段であり、それを活用するユーザー中心主義の考え方で、選択していくことで、その選択肢における投資対効果を定性的な観点も含めて、評価することできます。

現在の金融テクノロジー – 多層的な視点

2020 年代の現在、「金融テクノロジー」、広い意味での「お金を扱うテクノロジー」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?

生活の中で、仕事の中で、どういった技術に触れているかによって、思い浮かべるものが異なるのではないでしょうか。ある人は、スマートフォンでの支払を思い浮かべるかもしれません。パーソナル・ファイナンスの機能を備えた銀行や金融サービス機関が提供するポータルやアプリを思い浮かべるかもしれません。ビットコインやイーサリアムといったデジタル通貨や暗号資産を思い浮かべるかもしれません。

企業での業務の文脈では、決済や、外国為替といった、金融機関との手続きを支援するテクノロジー・サービスを思い浮かべるかもしれません。また、空気や水のように、業務の過程において、金融機関との間で、コンピューター同士の対話がされているイメージを思い浮かべるかもしれません。

特に2010年中盤以降の金融テクノロジーの発展と選択肢の拡充は目覚ましく、「フィンテック」という言葉には、現代的で可能性を示唆する響きを感じられるかもしれません。行政においても、その活用可能性とリテラシーの向上への関心は高く、日本においても有識者によるイニシアチブなど、ひとつの社会命題として取り組まれていると言っても過言ではないでしょう。

スマートフォン決済のような、コンシューマーで利用される技術、業務に関連する取引を銀行間と行うような企業で利用される技術、いずれもその発展においては、リアルタイム性、簡易性が共通する要素となっていますが、「そのサービスを支えているのは誰か」に視点を向けることも重要です。スマートフォン決済というユーザー経験の裏側では、実際にお金についてのデータ、トランザクション (取引のこと。システム的な文脈において取引のことを、「トランザクション」と言います。) を処理しているのは、そのサービスを提供している、あるいはサービスの基盤を提供している金融サービス事業者であるかもしれません。また、実際のお金の動きは、ひょっとしたら、サービスを提供する事業者の間で、決まったスケジュールでまとめて特定の銀行口座から移動しているかもしれません。

ユーザー体験として提供される、現代的で便利な「お金を使う」体験の裏側には、実際にはサービスの層 (ユーザーに便利な体験をしてもらう層) と、お金を管理する、言わば「縁の下の力持ち」のような層があるかもしれません。その「縁の下の力持ち」を果たしているのが、銀行をはじめとする金融サービス事業者です。

「縁の下の力持ち」の世界では、守るべきものが多くあります。安全・確実に処理が行われること、規制の遵守、また、国をまたぐような場合は、その国のルール、国と国との間の貿易上のルールを守ることが極めて重要です。ユーザー体験を提供する花形の世界の裏側では、「縁の下の力持ち」が多様なルールを守り、サービス自体を可能にしているのです。

次章では、空気や水のようにある仕組み、また、それを支える縁の下の力持ちとして、日本の銀行サービスの技術を支える基盤である「全銀システム」と「ANSER」について触れてみたいと思います。


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企業と銀行をつなぐテクノロジー   – INDEX –
  1. 加速するグローバル化と金融テクノロジーのトレンド
  2. 日本の金融テクノロジー : 全銀システムと ANSER を中心に
  3. 国際標準としての Swift と Host-to-Host 接続
  4. デジタル化時代の金融セキュリティ
  5. 将来の展望 : 金融テクノロジーの未来と革新
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