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国際標準としての Swift と Host-to-Host 接続

By Kaz Goto
Senior Product Marketing Manager

企業と銀行をつなぐテクノロジー 第 3 章 〜 この章では、Swift の金融機関ネットワークとホスト間接続の重要性を探り、国際的な金融取引における役割と効果について説明します。

グローバルネットワークと技術標準

経済のグローバル化とテクノロジーの標準化は、相互に影響しながら現代の資本主義の世界を形作ってきました。国境を超える企業間の取引の定常化は、国境を超えてお金を送ること、受け取ることを安全に安心して行える環境が求められ、また、同時に発展する情報技術を活用する上での共通化・標準化を図るために、国際的な銀行間通信のための協会が設立されることとなります。それが Swift で、現在、世界最大の金融機関ネットワークを運営しています。このネットワークには、企業が接続することができます。

一方、中央集権的なネットワークとは別に、汎用的な情報技術をもって、企業とそれぞれの金融機関が直接繋がり合うことも可能となりました。インターネットの発展の中で汎用的な技術となった FTP = ファイル転送プロトコルを用いて、企業と銀行の間を繋げることもできます。FTP で繋がった銀行から、金融機関間が繋がる Swift のネットワークを通じて、世界中の銀行に送金を行うこともできます。企業と銀行とを直接繋げる方式は、一般的に「Host-to-Host (ホスト・トゥ・ホスト) 接続」(略して H2H) または「ホスト間接続」などと呼ばれます。

Swift – グローバル最大の金融機関ネットワーク

Swift (スウィフト = 国際銀行間通信協会 = Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication) は、銀行間の国際金融取引を仲介する共同組合で、1973 年に設立されました。Swift により、グローバルの金融機関ネットワークである SWIFTNet が運営されており、このネットワーク自体も通称して Swift と呼ばれる場合もあります。

SWIFTNet へは、金融機関はもとより、企業も接続することができます。接続にあたっては、BIC (ビック = Bank Identifier Code) という法人ごとに一意なコードを Swift より発行します (発行の手続きには、一定の期間を要します)。この BIC によって、ネットワークに接続するシステムや、伝送するメッセージ・ファイルが、その法人からのものであることがネットワーク上で識別されることとなります。

Swift のメッセージのフォーマット

Swift 上でやり取りされるメッセージのフォーマットには、旧来のテキスト形式の MT と、ISO 標準の XML 形式のシリーズがあります。代表的なメッセージとして以下のようなものがあります。

MT (Message Type):

  • MT940 (エムティーきゅうよんまる) = 日締明細 (End-of-Day = エンド・オブ・デイ) – 1 日の終わりに送られる、確定的な入出金明細
  • MT942 (エムティーきゅううよんに) = 日中明細 (Intraday = イントラデイ) – 日中に送られる、速報としての入出金明細
  • MT101 (エムティーいちまるいち), MT103, MT202 = 送金依頼

MX (ISO20022) / XML (Extensible Markup Language):

  • camt.053 (カムト = Cash Management ぜろごうさん) = 日締明細 (End-of-Day) – 1 日の終わりに送られる、確定的な入出金明細
  • camt.052 (カムト = Cash Management ぜろごうに) = 日中明細 (Intraday) – 日中に送られる、速報としての入出金明細
  • pain.002 (ペイン = Payment ぜろぜろに) = 送金依頼。世代としてのバージョンがあり、現在多く運用されているバージョンである v3 から、2025 年に向けてより新しい v9 への世代移行が進んでいる。
  • pain.001 (ペイン = Payment ぜろぜろいち) = 送金依頼応答通知、別名 ACK (アック = Acknowledgement)

番号体系に一貫性がないようにも見えますが、入出金明細については 2 で終わるものが日中明細 (Intraday) として覚えると、覚えやすいかもしれません。

フォーマットの移行とトレンド

Swift に参加する金融機関においては、MT から XML への 2025 年 11 月までの移行が必須として通達されています。金融機関間で伝送されるメッセージは、よりセキュアでより多くの情報を構造的に織り込むことのできるフォーマットが標準的なものとなります。金融機関での対応の流れと共鳴する形で、市場全体において、XML・ISO20022 対応が大きなトレンドとなっています。世界の銀行の対応も様々で、入出金明細においても早期に MT940/942 を提供サービスから外し、camt.053/052 のみを提供する銀行も見られます。

MT から XML への移行は、技術の立場から、業務上のケイパビリティを大きく広げる可能性を持っています。具体的には、より多くの情報を織り込めるため、特にデータとして「決済情報に含めた情報を、入出金明細に引き回す」ことのできる拡張性や、入出金情報の取引種別の詳細化をより精緻に行える、などです。つまり、金融機関間とやり取りするデータをもって、企業が運用する情報システムとの相互運用性を大きく高めることのできる可能性があるということです。

市場の課題は、現時点においては、将来実現できることへの準備・先行投資という性格もあり、新しい技術様式への転換に際しては、金融機関としても企業とその情報システムとしても、過渡期の段階でもある点です。例えば、決済情報の情報を入出金明細に引き回すための対応は、金融機関によって、あるいは拠点や利用されているシステムによって、できる場合・できない場合もあります。また、企業情報システムからデータを連携する上での事例、ベストプラクティス自体が、開発発展段階にあります。入出金情報の取引種別についても、金融機関として選択可能な枠組みを活用できる前段階で、単純にフォーマットのみ新しく、内容自体は旧来の MT と同様という場合もあるかもしれません (MT と XML で共通のデータを利用しているようなケース)。

この市場のトレンドは、2020 年代から 2030 年代にかけて、情報システムの相互運用性をどのように確立していくのかという、大きな流れの中にあると言っても過言ではないでしょう。ユーザー企業としては、市場のトレンドと、取引先の金融機関での技術的なロードマップを捉えながら、自社の目的 (パーパス) や事業展開の方向性、情報システムのロードマップといった複合的な観点から優先順位付けをしながら、対応を検討していくことが重要です。

Host-to-Host (H2H) – 銀行固有のサービス可能性とレバレッジ

汎用的な技術をもって、特定の銀行とネットワーク接続をする。それが、Host-to-Host 接続です。接続には汎用的な FTP (ファイル転送プロトコル) を用いて、ひとつのシステムとして接続を確立します。ユーザー企業側の視点で接続する元となるシステムは、ソリューションプロバイダーが提供するシステムであることが多いでしょう。Kyriba もそのひとつです。ここでは、Kyriba と銀行との Host-to-Host 接続をするにあたってのステップについて触れてみたいと思います。少々、情報システム的な工程にも言及しています。

Host-to-Host 接続のステップ

Host-to-Host 接続のステップの一例は、以下のような段取りです。

  1. 銀行との接続サービス契約オプション検討 (ユーザー企業・銀行)
  2. 銀行との接続サービス契約締結 (ユーザー企業・銀行)
  3. キックオフ (ユーザー企業・銀行・Kyriba)
  4. 技術的な接続要件検討・決定 (ユーザー企業・銀行・Kyriba)
  5. FTP アカウント作成 (銀行・Kyriba)
  6. 認証用の SSH 鍵生成・交換・設定 (銀行・Kyriba)
  7. ファイル暗号化用の PGP 鍵生成・交換・設定 (銀行・Kyriba) – 要件・必要に応じて
  8. 疎通テスト (銀行・Kyriba) – 相互に接続できることの確認
  9. 伝送・E2E (End-to-End) テスト (銀行・Kyriba) – 相互のファイル伝送、前後処理を含めたプロセスの確認
  10. ユーザー企業による受入確認 (ユーザー企業)
  11. クロージング・終了 (ユーザー企業・銀行・Kyriba)

実際には、システム間の技術的な接続工程以外にも、業務上の検証工程や、企業側の関連システムとの連携といった工程も勘案されることもあり、プロジェクト個別での計画化が行われますが、共通する部分として概ね以上のようなことが行われます。そう、業務的な工程以外は、一般的なシステム間接続と同様なのです。

銀行と直接繋がるということ

Host-to-Host 接続は、文字通り、ユーザー企業の利用するシステムと、銀行のシステムを直接繋ぐということです。銀行側も、ひとつのシステムを接続するサービスとして提供するため、自律的なサービス運営や、銀行として固有性をもって、ユーザー企業側へのベネフィットを提供しやすい技術・サービス構成とも言えます。また、特定の銀行での口座が世界各国に多数あるような場合、その銀行としてのスケールメリットを経済性をもって享受できる場合もあるかもしれません。


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企業と銀行をつなぐテクノロジー   – INDEX –
  1. 加速するグローバル化と金融テクノロジーのトレンド
  2. 日本の金融テクノロジー : 全銀システムと ANSER を中心に
  3. 国際標準としての Swift と Host-to-Host 接続
  4. デジタル化時代の金融セキュリティ
  5. 将来の展望 : 金融テクノロジーの未来と革新
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