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日本の金融テクノロジー : 全銀システムと ANSER を中心に

By Kaz Goto
Senior Product Marketing Manager

企業と銀行をつなぐテクノロジー 第 2 章 〜 この章では、日本固有の金融システムである全銀システムと ANSER の機能と役割に焦点を当て、これらが国内企業と銀行間の取引にどう影響しているかを説明します。

情報システムと銀行との繋がり

日本企業の情報システムで、銀行にどれだけお金があるのかを把握したり、お金を振り込んだりすることができるとしたら、全銀協が統括・運営する「全銀システム」か、NTT DATA の提供する「ANSER」の仕組みで繋がっていると言っても過言ではないでしょう。いずれも多くの企業で、実績のある仕組みとして利用されています。直接使ったことがなくても、「ゼンギン」「アンサー」という言葉は耳にしたことがあるかもしれません。

社内の情報システムと銀行とを繋ぐことで、お金の情報を把握し、それを元に会計記帳を行ったり、仕入や売上との照合・消し込み (仕入・売上の情報と実際の入出金が一致していることの確認) を行ったり、社内で必要な口座にお金を動かしたり、仕入先の口座にお金を振り込んだりといった業務を、システム的に行うことができます。また、業務的な情報システムでなくとも、金融機関や金融情報サービス事業者が提供する端末型のサービスを用いて、一元的に銀行関連の業務を行われていることもあるでしょう。

この章では、日本の銀行サービスの技術を支える基盤である「全銀システム」と「ANSER」について少し掘り下げてみたいと思います。

全銀システム – 50 年の歴史、これからの展開

全銀システムは、全銀協 (全国銀行協会) の元、1973 年に稼働を開始しました。銀行口座の入出金明細や振込の情報を、定型化されたファイル形式で受信したり、送信することができます。

全銀フォーマット

全銀システムでは、標準化された固有のファイル形式 = フォーマットを定義しています。標準仕様書の「適用業務およびレコード・フォーマット」を参照すると、32 種類のフォーマット (ファイルの形式であり、取引の種類ごとの形式) が含まれています。

代表的なフォーマットとしては、以下のようなものがあります。

  • 入出金取引明細 – 口座の入出金明細情報
  • 振込振替 (略称:振振 = ふりふり) – 都度形式の振込情報
  • 総合振込 (略称:総振 = そうふり) – 総合 (バルク) 形式での振込情報
  • 給与振込 (略称:給振 = きゅうふり) – 給与支払のための振込情報
  • 賞与振込 (略称:賞振 = しょうふり) – 賞与支払のための振込情報

1973 年より運用され、50 年の歴史を持つ旧来の全銀のファイル形式は、「固定長テキストファイル」で、それぞれのフォーマットごとに決まった文字列長で、金額項目は何桁目から何桁目といったように、決まった桁範囲に項目が定められています。日本語の文字列情報は、半角カタカナです (Windows ならば、[Function 8] キーを押すと変換される「キリバジャパン」のような細いカタカナです) 。

日付情報欄は、6 桁の YYMMDD で、年の部分 (YY) は和暦 (令和) を表しています。

フォーマットの中に保持する情報の基本思想として、項目が用途ごとに定義されており、例えば、入出金取引明細では振込依頼人の情報項目が用意されていたりします。当たり前のように思われるかもしれませんが、国際標準的な金融情報ネットワークである Swift (第 3 章で言及しています) の定義する入出金明細の MT940 では、振込依頼人固有の情報項目は用意されておらず、各種情報をひとつの汎用的な摘要情報項目に織り込む設計思想で、対照的なものとなっています。日本国内での利用用途に焦点をあてた設計思想で、日本企業での出納・財務・経理業務との親和性が考えられた仕様と言えるでしょうか。

総合振込の特性

日本国内・日本円の振込・送金方法として振込振替と総合振込があります。振込振替は、都度の振込で、登録した振込の情報が 1 行ごとに、そのまま振り込まれる仕様で、運用上必要に応じて用いられています。

総合振込は、通常業務として用いられるもので、同一の支払日・同一の支払先口座の場合は、銀行側で 1 行の明細情報として集計され、支払先へ振り込まれます。つまり、総合振込で同じ取引先に対して、100 万円、200 万円、300 万円の明細情報があった場合は、1 行に集計されて 600 万円として処理されます。その結果である 600 万円が 1 行、入出金取引明細に含まれる形となります (これに支払手数料が合算される場合もあります)。

明細上の金額が合算された結果、振込・送金のために把握していた情報 (100 万円、200 万円、300 万円) と、結果として受け取る情報 (600 万円) とが複数対 1 の関係となるため、入出金の結果確認時に、人為的な運用が必要となる場合があります。海外や国際的な送金と入出金明細の関係においては、多くの場合集計されることはなく、1 対 1 となるためこの「総合振込」にかかる確認業務は日本市場の特性を孕んでいます。今後、より新しいフォーマットの採用と保有できる情報が豊かになることによって、自動処理の可能性も広がることが期待されます。

通信基盤の世代交代、次世代のロードマップ

全銀システムの通信基盤は、旧来より電話回線を利用してきました。2024 年の NTT の電話回線 (ISDN 回線) のサービス終了により、通信インフラの世代交代のための移行が行われ、2023 年の終盤にかけて、ユーザー企業と銀行の両者において、この移行のための投資と取組みが求められる状況がありました。電話回線の後継インフラとして、NTT DATA の提供する専用線接続サービスである、AnserDATAPORT (ADP) が主要な移行先となりました。

通信基盤の世代移行はあくまで通信層を主とするものですが、全銀システムのより本質的な技術更改として「次世代全銀システム」のロードマップが 2027 年をマイルストーンに設定して公開されています。基本方針として、現行の仕組みを継承し堅牢化を図る「ミッションクリティカルエリア」と、API 等よりモダンなテクノロジーの採用を視野に入れた「アジャイルエリア」との領域に分けた戦略的な方向性を提示しており、今後の日本の金融技術インフラの発展と、それが日本企業の競争力とエコシステムの獲得においてどのように寄与するのかを描いていく上で、今後の展開は重要です。

ANSER – 金融情報とサービス指向性

ANSER (アンサー = Automatic answer Network System for Electronic Request) は、1981 年に稼働開始した日本国内での各種金融業務の自動化サービスで、NTT DATA によってそのサービスが運営されています。全銀システム同様に、銀行口座の残高情報、入出金明細情報の取得や、振込を行うことができます。企業が銀行と ANSER の契約をするにあたっては、「ANSER-SPC (VALUX)」と「ANSER-HT (VALUX)」の 2 つの契約形態があり、サービス提供者側でそれぞれのサービス仕様・サービスレベルが規定されています (いずれかででき、いずれかでできない場合もあるため、用途に沿った契約が必要です)。

ANSER は 30 年以上の歴史を持ちながら、サービス指向性の高いものとなっており、ASP として ANSER への接続を提供する eBAgent (イービーエージェント) や、eBAgent へのゲートウェイサービスである GGAPS (ジーギャップス) といった周辺サービスがあります。また、複数の銀行との接続、厳密に言うと複数の銀行との一元的な認証を可能とする VALUX (バリュックス) サービスを用いた端末型のサービスや、ウェブベースのサービスが提供されています。特に端末型のサービスについては、銀行のブランドでのサービスとして提供されるものもあります。

ANSER、VALUX、eBAgent、GGAPS と、特徴的なネーミングと、固有の概念ですが、ANSER は基礎となるメッセージ・サービス、VALUX は認証サービス、eBAgent はアプリケーションサービス、GGAPS はゲートウェイサービス、と捉えるとイメージしやすいでしょうか。

全銀システムと ANSER を用いたサービスとでは、その性格が重なる部分もありますが、金融機関によっては、いずれかのみ利用できる、あるいは、特定の業務においていずれかが適するといった、相互補完的な側面もあります。ユーザー企業として、どのサービスが適しているのかは、何を実現するのかによって、その最適解は変わってくると言えるでしょう。

ANSER のフォーマット?

ANSER は、そのサービスの性質上、「ANSER として固定化されたフォーマット」というよりも、利用する端末やユーザーが接するフロントエンドのサービスによって提供されています。例えば、eBAgent としてのファイル形式が用意されている、各社の VALUX 端末で固有のファイル形式が用意されている、といった形です。


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企業と銀行をつなぐテクノロジー   – INDEX –
  1. 加速するグローバル化と金融テクノロジーのトレンド
  2. 日本の金融テクノロジー : 全銀システムと ANSER を中心に
  3. 国際標準としての Swift と Host-to-Host 接続
  4. デジタル化時代の金融セキュリティ
  5. 将来の展望 : 金融テクノロジーの未来と革新
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